ヴィオラ日記4

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歌への憧れ

 複数の人で合奏するアンサンブル曲やオーケストラ曲に於いて、歌は楽器と並列に音符を並べたパートの1種として記されています。しかし他のパートは人間以外の物としての楽器により音を出しますが、歌の人は自らの身体で音を作り出します。そのため、音のコントロールが楽器に比べ自由にできるようで、音色、テンポや装飾音等の変化が楽器演奏よりも際だっているように感じます。

 

 それに気づいたのは、バッハのカンタータに於いて多用されるレチタティーヴォという形式の歌で、旋律的なアリアとは異なり、言葉を語るように歌われます。一応楽譜に音符が記されていますが、特にテンポは自由で全く楽譜とは異なります。このレチタティーヴォの演奏は慣れない私にはとても難しく感じていました。

 それが施設の訪問演奏グループに誘われて、歌の伴奏を数人の弦楽器で行なううちに、もちろんレチタティーヴォではありませんが歌に合わすことが大変興味深く、また楽しくなってきたのです。老人施設で歌う歌はクラシックの小品から映画音楽、昭和歌謡、フォークソング、童謡まで様々でしたが、今迄あまり感じたことがなかった快感がありました。

 そして、歌の方が出演するオペラを聴いたとき、本格的教育を受けた方たちの独唱や重唱の迫力に圧倒されてしまいました。それまでオペラは子供の公演しか聴いたことがなく、ほとんどコンサートには行かず、たまに聴くのは弦楽器のアンサンブルやオーケストラ等ばかりで、歌には全く興味がありませんでした。そのうえ、人の声で言葉による歌詞を演奏すること自体が、器楽演奏に比べてどこか不純で生理的な音楽として少し敬遠していました。それが歌の伴奏経験とオペラ経験で、瞬く間に歌に魅了され音楽の興味の幅が一気に広がり、演奏対象としての音楽ジャンルもとても拡がりました。

 70歳頃からのこうした体験を通じて、このような色々な音楽スタイルを経験するだけでなく発表してみたくなり、ドイツレクイエムで合唱との共演に参加し、次は歌入りの室内楽を演奏し、ついにはオペラの伴奏オーケストラでオペラ公演に参加することを実現できたのです。