ヴィオラ日記6

編曲楽譜雑感

 私が老人施設の訪問演奏グループに入れて頂いたころから、編曲楽譜をいろいろなところから入手するようになりました。特に歌と共に演奏するための、弦楽四重奏用の編曲楽譜です。多くは歌が無くてもヴァイオリン等が旋律を担当し、演奏できるようになっています。

 これらの楽譜の出版元は、今はたくさんありますが、国内で昔から有名で曲数も圧倒的に多いのはFCミュージックというところです。その楽譜には編曲者の名前が普通はありません。会社が権利を買い取っているのでしょうか。それに対し一般の楽譜出版社もかなり数が増え、それぞれの出版曲も増えて来ており、これらは編曲者が明記されています。歌の曲の弦楽四重奏版でいえば、StoneMusic や ドレミ出版などが有名でStoneMusicは国内の楽譜出版用のフォントなどを開発した企業です。更に最近はインターネット販売の普及により、楽譜のデータを購入して、ダウンロードして印刷や楽譜用タブレットなどで使用する形態も増えて来ています。当然のことながらその購入先は国内に限らず、紙媒体で購入する場合も、国際的に個人が注文してもその配達網の発達により、国内より少し日数がかかる程度で、お金の支払いも、カード決済で全く不自由無くできるようになってきました。


 編曲楽譜は、その昔ヨーロッパで、楽譜出版により音楽が普及し、貴族社会を中心にアマチュアで演奏を楽しむ人々が増え始めた時期から、歌やピアノ曲から交響曲までを、小編成の室内楽で演奏できるよう編曲楽譜が普及し始めました。まだ録音技術は無かった時代です。これによりコンサート会場に行けない人々も、時代の新曲を知ることができたようです。
 時代も国も変わり今の私たちの音楽環境は恐ろしいほどの技術革新が進み、特に音楽を聴く立場からは、極めて広いジャンルの広い時代の音楽を無料でも聴けるようになり、更にそれには映像が伴い、料金を支払う価値を認めれば一般的に知られた音楽はほとんど個人で聴くことができるようになってきました。もちろん、十分な情報量や質が未開拓な分野は未だありますが、これも時間とともに、発信者の一般化も後押しをして充実していく方向にあると感じます。


 更に、その昔の貴族社会で広まったアマチュアの演奏行為は今の時代、プロフェッショナルもアマチュアも巻き込み、膨大な数のコンサートが催されています。ポップスの世界ではいつでも行けるカラオケが普及し、ギターやキーボード、ドラムスなどが手軽に手に入るようになり、マスメディアに載らないジャンルも含め広範な演奏者が活動し発信しています。一方クラシックの世界では(このような分類自体が意味を問われるかもしれませんが。)合唱と吹奏楽が一般の学校で普及し、その経験者たちが社会人になっても活動を続けるようになり、弦楽器教育の戦後からの普及もあいまって、あのオーケストラという贅沢な演奏形態も少なくとも都市部のアマチュアの間では大小含めて大変な数の団体が活動しています。またプロフェッショナルとしての活動が難しいといわれた室内楽の形態もアマチュアも含め過去にない勢いで普及してきました。


 これらの人たちが演奏する様々な編成に合う楽譜は一部の有名曲を除き、販売部数も少量多品種になり、従来の出版形態では担いきれないことも多くなります。演奏者たちが自分で編曲することも多いようですが、この場合、編曲の技術・感性は不十分なものになりがちです。それらの需要に対して広がりつつあるインターネットでのデータとしての楽譜販売は、徐々に需要者との接点が拡がり、現在の膨大な音楽演奏者達の楽譜への願いを実現していくような気がします。
また最近では従来の紙媒体の楽譜出版の対象になっていた有名曲の原曲譜も、データとしてダウンロードしてタブレット型の楽譜として使用している演奏家も散見されるようになっています。もちろんこの分野にも、さまざまな権利関係の調整が今後必要になってくるかもしれませんが、その充実と相まって、全体として結構大きな商業分野となる可能性があると言えます。もちろんアマチュアは作編曲にも広がりはじめており、今後多くの編曲楽譜がアマチュアの手で発信され始めるかもしれません。
このように、楽譜のインターネット販売は、多くの分野と同様に、楽譜の世界にいろいろな刺激を与え、進化していくことと考えられます。もちろん古典派以前から受け継いできた無数の名曲の価値は、その普及とともに増すことはあっても、損なわれることはないでしょう。